アオリイカがイカの王様といわれるゆえんはいくつかあるがイチオシにしたいのは、やはりその味だ。
透明感のある身は歯を押し戻すほど弾力があって、それを無心で噛み砕いている内に襲ってくる身の甘さにきっと感激するはずだ。
この甘み成分を構成するのはグリシン、アラニン、プロリンなどのアミノ酸で、特にグリシンはデカくはなるが味はイマイチといわれるソデイカの100倍近くも含まれているという。
不思議なことにこの甘み成分は、背の青い魚と同じで、釣った日よりも翌日の方が飛躍的に量が増えて身が甘くなる。
それまでは新鮮なものほどうまいと思っていたから、眠い目をこすりながら釣ったその日に料理して食べていたのだ。
しかし、釣った日と翌日とを食べ比べてみると、確かに味が変わる。
当日、料理したものは歯ごたえは抜群だがイマイチ甘みが足りない。
ところが翌日に食べてみたら、身が少し軟らかくなってムチッとした感触が強くなったが、甘みが倍増していたのだ。
うまいイカを飽食したいと思ったら、料理もさることながら上手に持ち帰ることだ。
スルメにしてもケンサキにしても、イカを締めて持ち帰る人は見たことがなかったが、アオリイカだけは、漁師も釣り人もなぜか締める。
特に漁師は、ステンレス製の細い針金でできた専用の締め具を持っていて、カラストンビと呼ばれる口から針金を通し一気に締める。
これをやると一瞬にしてアオリイカの体色が半透明に変わるから、素人でも締まったかどうかが一目で分かる。