5月に入ると渓の源流部でも水温が上がり、魚の活性は高くなっているので毛バリにも飛び出してくる。
ただ、渓が小さかったりブッシュがあったりで、テンカラもフライにしても毛バリを振りにくい条件が多いから、やはりこの季節の源流釣りはエサ釣りの独壇場だ。
この時期になると渓魚のメーンディシュは、水生昆虫や陸棲昆虫になるので、川虫を使ったりミミズのエサで攻略することになる。
源流部の渓の規模によって、ごく普通のエサ釣りがやれる場所もあるし、小さな枝谷を攻めるときには、ちょうちん釣りが威力を発揮する。
ちょうちん釣りとは、竿の長さよりも極端に道糸を短くした仕掛けを使って釣る釣法で、竿の先に提灯をぶら下げたように見えることから生まれた呼び名だといわれている。
源流部に棲む渓魚は、どんな小さな枝谷でも水さえ枯れない場所であれば棲息しているものだ。
わずか50cm四方の小さな落ち込みにもいることがある。そういう場所は倒木やブッシュにおおわれていることが多いから、長い仕掛けではとても振り込めない。
そこでちょうちん釣りの出番がやってくるのだ。
竿の長さの3分の1程度、ブッシュがひどくてトンネルのような状態になった場所では、さらに仕掛けを短くして、そろそろと竿を伸ばしながら仕掛けを送り込む。
こんな場所にいるイワナやアマゴは、エサが豊富ではないから一発で飛びついてくることが多い。
さて、首尾良く魚は掛かったが竿を立てて取り込めないときはどうするか?。
こんなときは仕掛けを送り込んでいったときと同じ要領で、少しずつ竿をちじめては取り込む。
もちろん掛かった魚は、暴れ続けているから、決して道糸を緩めないこと。
こうしてハリから外れないかとハラハラしながら取り込む、このスリリングな一時が、ちょうちん釣りの面白さであり醍醐味なのだ。
陽春の季節にこのような源流の釣りが楽しめるのは、もちろん気候の温暖な西日本の渓だ。
深い根雪に閉ざされた北の地方の源流部は、5月に入ってもまだ入渓が困難なところもあるし、根雪が溶け雪しろがでて増水と濁りで釣りにならない場所もある。
これが南北に細長く伸びた日本の渓流釣りの特徴でもある。