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2014年9月11日

アユは塩焼きに限る

西日本の清流をさすらいながら、いろんなアユと出合い、旨いの、まずいのといいながら食べ続けてきた僕だが、歳とともに食べ物の嗜好が変わってきたのか、それとも最終的に行き着くところは素朴でシンプルな塩焼きなのか、この料理に執着するようになってきた。
 
料理に限らず簡単でシンプルなものほど、いったんハマると奥が深い。
 
釣ってきたアユをおいしく食べるために、最初は小型の天火を買った。
 
少なくとも家庭用のガスレンジで焼くよりは天火の方が、アユがうまく焼けるからだ。

うねり串を打ち化粧塩をしてあらかじめ熱しておいた天火に入れ、最初は強火でじっくり焼く。
 
やがて表面の皮が焼けて弾け、全体がキツネ色に染まりはじめたら少し火を絞って、さらにアマゴの身に染み込んだ余分な水分を飛ばす。
 
これで身が純白に染まり、ほこほこになるはずだ。
 
そう考えて何度も何度も試してみたが、キャンプしながら河原で食べたアユの塩焼きほどはおいしくない。
 
もちろんシチュエーションの違いはある。
 
緑豊かな大自然の中で食べるという行為は、何もかもおいしくしてくれるのは事実だ。
 
しかし、それだけではないような気がする。
 
使う火と焼き方に問題があるようなのだ。
 
キャンプをするときにはいつも、大型のバーベキューコンロを持ち込んで足をとっぱらい、コンロを直接地べたへ置いて大量の炭をいこす。
 
やがて炭が真っ赤にいこったあと、表面がうっすら白い灰に包まれるようになってから、竹串に刺したアユを火にかざす。
 
アユを焼くときは、必ず頭を下にしなければならない。
 
頭を下にしておくと焼いている間に余分な水分が、どんどん口からでていくため身がほこほこになるのだ。
 
そんなシーンを思い浮かべているうちにはたと気づいた。
 
天火と炭火の火力の違いはあるが、それ以上に重要なのは、串に刺したアユを立てて焼けるかどうかなのだ。
 
わが家にある小型の天火ではアマゴは寝かせてしか焼けない。
 
これでもある程度は余分な水分を抜くことはできるが、串を立てて焼くほどは抜けないのではないか。
 
ゆえに焼き上がったあとの身のほこほこ感が微妙に違うのだと思うようになった。
 
こんな具にもつかないことを考えているうちに、ボクの夢はどんどんふくらんで、一度、最高の素材を手に入れ、究極の塩焼きなるものを作ってみたくなった。
 
アユが本当においしくなるのは7月も半ばを過ぎてから。
 
それも水温が低く水の綺麗な本当の意味での清流で育った17、18cmの大きさのものが理想的だ。
 
石に付くコケが上質なものだと、アユを釣り上げた途端、ウリかスイカに似た香りを放ち、思わず鼻の穴に突っ込みたくなるようなアユを手に入れたい。
 
使う炭は、硬くて火力の強い紀州の「備長炭」。
 
塩はもちろんきめ細かな天然ものを使いたい。
 
自分で削りだした竹串をアユの口から入れ、いったん腹側に抜いたあと、アユの体をうねらせながら尻ビレの近くまで差し込む。
 
それぞれのヒレに化粧塩をしてから、体の両側にまんべんなく細雪のような尺塩をふる。
 
尺塩とは魚の体から30cmほど離して満遍なく塩をふること。
 
これによって、ムラなくアユの体全体に塩がゆきわたる。
 
ここまでの作業が終わったらできるだけ竹串を高く火にかざすように立て、火力の強い備長炭でじっくり焼き上げる。
 
うねった体の飛び出た部分の表皮が焦げ、ぷっとふくれて破れるころには、アユの体全体がキツネ色に染まり、身がほこほこに変身しているはずである。
 
身がほこほこになるまで焼けたかどうか自信がなければ、尻尾の付け根を押さえてみる。
 
この部分がふわふわしていたら、きれいに焼きあがった証拠だ。
 
理想の魚と理想の塩、そして理想の炭が三位一体となって作り出す究極のアユの塩焼き、一度ならずとも食べてみたいと思うのはボクだけだろうか…。