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2014年8月28日

夏はやっぱりキュウセン

体色が派手なせいか敬遠されることが多いのが、ベラの仲間のキュウセンだ。

ところが明石に限らず瀬戸内に面した漁村では、この魚をことのほか珍重する。
 
潮の甘い瀬戸内の海で、それも潮の速い瀬戸で育った魚は、キュウセンに限らず何でもうまい。
 
塩分濃度か、潮の速さか、それとも水温なのか、どれがどうだとははっきり言えない弱みはあるが、うまいものは。うまいのであって理由はいらない。
 
 
かつて、南紀の串本で釣れたキュウセンと本場・明石のキュウセンを食べ比べてみたことがあった。
 
軍配は文句なく明石産に上がった。
 
串本産は身が軟らかく、キュウセン特有の上品な身の甘さが感じられなかった。
 
所変われば味も変わる、キュウセンとはそんな魚なのである。
 
 
キュウセンは、釣り人が赤ベラと呼んでいるのがメスで、少し大きい青ベラがオスだ。
 

ところがこの魚は、生まれたときはすべて体色の赤いメスで、メスの中の一部が性転換してオスになり、体色も青くなるのである。
 
これを証明するために面白い実験をした人がいた。
 
すでに立派な青ベラになったオスを去勢すると、あら不思議や、もとのメスの赤い体色に戻ったというのである。
 
便利といえば、たしかにそう言えなくもないが、変身したくないヤツもきっといるに違いない。
 
 
さて、キュウセンといえば夏、ギラギラと照りつける太陽が似合う魚である。
 
波止や小磯からシモリ周りの砂礫底をウキで流していると釣れることもあるが、確実に狙うなら投げ釣りがお勧め。
 
 
あの小さいが鋭い歯でエサをかじり取るようにして食うから、投げ釣りも小バリに小エサが定番だ。
 
投げ釣りで狙うときは、キスが釣れるような浜から狙う。
 
ただ、外洋に面した浜には少ないから、瀬戸内海や大阪湾のような波静かな内海の浜がポイントになる。
 
 
また、白砂青松の浜といわれるような、きれいな砂底の浜も意外にキュウセンは少ない。
 
小さくてもいいからシモリが点々とあって海藻などが生え、その周りに砂礫底が広がっているような場所とか、ゴロタ石が多い浜がベストポイントになっている。
 
潮の速さは、あまりこだわらないが、まったく動かないような場所は敬遠する。
 
 
こういう理想的な浜が見つかったら、竿を2、3本さげてのんびり出かけよう。
 
キュウセンは意外に朝寝坊だから、日が昇り周りが明るくなってから竿をだせば十分だ。
 
エサ取りがうまいから1本バリでは心細い。
 
最低2、3本はハリを結んだ仕掛けに小さく切ったホンムシのエサを刺し、思いきりブン投げて置き竿でのんびりアタリを待てばいい釣りだ。
 
 
もちろんこういう置き竿の釣りは、竿が1本では退屈するので2、3本は竿を出し、遠近投げわけてアタリを待つことだ。
 
コンコンと小さいが鋭いアタリが竿先に出たら、たいていは向こうアワセで掛かっているから、ゆっくりリールを巻いて取り込めばよい。
 
 
キュウセンの旬は夏、釣りのシーズンも夏が定番なのは、この魚が冬眠するためである。
 
水温が下がり始める晩秋ごろから、急にキュウセンが釣れなくなるのは、一斉に砂の中に潜り込んで冬眠を始めるためで、この間はエサも取らずひたすら眠り、水温が上がり始める晩春にようやく目覚めて、今度は活発にエサを食べるようになる。
 
キュウセンが真冬に釣れないのはこのような習性があるためだ。
 
 
この魚が面白いのは冬眠だけではない。
 
まるで謹厳実直な人間のように、日没とともに砂の中で眠り、夜明けとともに起き出す真面目な魚でもある。
 
キュウセンが夜釣りで釣れないのはこんな習性があるからだ。
 
もちろん潮が濁って水中が薄暗くなると食いが落ちる。
 
曇天や雨の日もあまり食いはよくない。
 
 
雲ひとつない夏空がどこまでも広がり、波穏やかでピーカンの日なら文句はない。
 
それに潮が澄んでいれば最高だ。
 
太陽がギラギラと照りつける真夏に釣ってこそ、瀬戸内のキュウセンは値打ちがあるのだ。