魚は外敵が出す音を関知して逃げたり、仲間や他の魚がエサを食べるときの音を素早く察知してその場所へ集まってくる。
このような習性を利用して海洋放牧場の実験が始まっている。
ある程度その地域に定着する魚を選び、稚魚を育てるとき、エサをやる時間に毎回同じ音楽を流し餌付けしてしまうと、しきりのない海へ放してもその音楽を流すとエサがもらえると思って集まってくる。
カツオの一本釣りで最初だけイワシのエサを撒き、あとは散水だけでカツオの群を引き留めておく漁法も、イワシが群れ騒ぐ音を利用したものである。
海の中ではいくら透明度がよくても見えるのはせいぜい40m止まりだといわれる。
だから魚は視覚に頼るより、聴覚や臭覚が発達しているのだ。
人間の聴覚は、40~6000ヘルツぐらいの範囲だといわれるが、魚の中には16ヘルツという低周波から1万3000ヘルツという高い周波数まで聞き分けることができるものもいるそうだ。
聴覚以上によく発達しているのが臭覚(嗅覚)。
特にエサなどに多く含まれている水中に溶けだしたアミノ酸などには敏感で、その能力は人間の300倍近くも鋭いといわれる魚がいる。
このような感覚器官のほかに魚には味蕾(みらい)と呼ばれる味覚をかぎわける器官があり、水中に溶け込んでいるさまざまな成分をかぎわけることができる。
未だ謎とされるサケの母川回帰も、このような器官を使って自分が生まれた川のにおいや水に含まれている成分をかぎわけて戻ってくるのでは、という説が有力だ。
聴覚や嗅覚のほかに魚には人間にはない感覚器官がある。
それが体の中央を走る側線と呼ばれるものだ。
この側線は魚にとってレーダーのような器官で、水圧や水流、水の振動や音などを感じる極めて敏感な器官のひとつで水中の岩や海藻の有無を関知したり、その遠近を知ることができる。
だから、水族館などで夜間に水槽を真っ暗にしても魚は平気で泳ぎ回り、ガラスの壁にぶつかることがない。
イワシなどの小魚が群れを作って泳ぐときも、お互いが常に一定の間隔を保って泳ぎぶつかり合うことがないし、急に方向を変えてもすぐに付いていけるのは、水中で水の微震動を捕らえることができる側線というレーダーがあるためである。