「広辞苑」によると、ち【鉤】釣針(つりばり)。神代紀(下)「其の故の-を責る」とある。
神代といえば神武天皇が即位する前の時代、つまり、神が国を治めていたとされる時代のことで、神代紀はその時代のことを表した古典。そこに"ち"という言葉が登場するのだ。ただ釣りバリそのものはもっと歴史が古く、縄文時代の貝塚から出土したものが数多くある。これらは古代針と呼ばれ、その多くは獣骨や貝殻、木の股などを利用して作られたものだった。
チモトとは、鉤(ち)の元から来た言葉だということがわかった。ただ、古代針から進化し続けてきたハリは、鋼で作られるようになってからさらに種類も増え、チモトの形も多様になった。もっとも一般的なハリのチモトは、ハリスがスッポ抜けないように叩いて平たくしたものだが、その形が耳に似ているのでこの部分をミミと呼ぶ。
日本で作られるほとんどのハリは、このような形のミミを持ったものだが、アユの掛けバリのように3本とか4本のハリを結束してイカリバリにするとき、平たくしたミミの部分が邪魔になってうまく結べないので、叩いてミミを作るかわりに、チモトの部分の内側だけに無数に切れ込みを入れたものがある。こういうタイプのハリは、ギザミミと呼ばれている。
また、昔の漁師用のハリに多かったのがシュモク(撞木)と呼ばれるタイプだ。撞木は鐘などを鳴らすためのT字型の棒のことで、漁師用がよく使っていたハリのチモトが、この鐘を叩く棒の形とそっくりだったために、このような呼び名が生まれた。
チモトがミミのようにカーブを描いて、左右に広がっているのではなく、ほぼ直角に両横に広がっているため、ハリスが滑ってすっぽ抜ける心配がないタイプのハリだ。
チモトの部分を曲げて小さな輪にしたものは、管つきバリと呼ばれる。この管つきタイプはアメリカやヨーロッパに多いハリで、日本では大物の泳がせ釣りや、クエ釣り用のハリなどによく見られる。また、同じような管つきでも、チモトを叩いて平たくし、その平たくした部分に穴を開けたイシダイバリなどは、穴さらえとよばれている。 このような管つきタイプのハリは、チモトに直接ハリスを巻き付けて結ぶ場合もあるが、たいていはハリスを管に通してから、ハリスも輪にしてスリーブなどで固定し、ハリが自由に動くようにして使うことが多い。こういう結び方を首振りタイプと呼んでいる。
最後にハリの各部の呼び方を紹介しておこう。チモトの下、直線になった部分を軸と呼び、この軸とハリ先までの間をフトコロ、ハリ先の下についた突起をカエシとかモドリと呼ぶ。